まちづくりとアートの未来をつくる「第3回 札幌駅前通アワード」受賞作品が決定しました!

第3回「札幌駅前通アワード」は、まちづくりとアートの未来をつくる「札幌駅前通アワード」は、「札幌駅前通」を中⼼に札幌を⽂化的で創造的なまちとして発信することを⽬的に誕⽣しました。まちを⾯⽩くするアイデアや作品プランを募集し、芸術⽂化にあふれた魅⼒的なまちづくりを⽬指します。

第3回は、札幌駅前通地下歩行空間「チ・カ・ホ」に面して新たに誕生するオフィスビル「THE VILLAGE SAPPORO」の高さ6m×幅3mのサイネージを舞台とし、さまざまな映像表現が溢れる昨今、公共的空間にふさわしい映像表現とは何か?を模索するために本アワードを実施しました。多数の素晴らしい作品をご応募いただき、誠にありがとうございました。過日厳正なる審査が行われ、賞を下記のとおり決定いたしました。

最優秀賞 兼子裕加 様

優秀賞  高橋喜代史 様

いちご賞 江田俊介、佐野風史 様

入選   Now(鍋島彩葉、後藤結希、蔦森美咲、佐藤柑菜、高口ののか、寺下幸来咲)様

     kankakusiki 様

今回、賞に選出された映像作品は「THE VILLAGE SAPPORO」B1Fに設置される幅6m×高さ3mのサイネージ(音声あり)で放映されます(2026年4月末頃からを予定)。また、2025年12月〜2026年2月までチ・カ・ホに設置されている工事中の仮囲いで各賞の発表をします。

受賞された皆様、誠におめでとうございます。

第3回札幌駅前通アワード受賞作品

※画像をクリックすると外部リンク(youtube)につながります。

最優秀賞 兼子裕加様「TSUMUGI」(2025年)

コンセプト:繋がりとは、単なる物理的な接触だけではなく、一方的な個人の認識によっても成立する関係性になり得る。たとえ今後の人生で一度もすれ違うことのない他者であっても、認識の仕方次第では、私たちはその存在と繋がることができるのではないか。本作では、人・万華鏡・結ばれる紐という三つのモチーフを通して、繋がりのあり方を探った。

プロフィール:愛知県生まれ。名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 在籍。近年の作品として、『音色がくれば』福岡アジア美術館 (福岡,2024) 、『内省』名古屋市市政資料館 (愛知,2025)、『拭いとるように積む』善福寺公園 (東京,2025)、2025 公益財団法人 電通育英会 助成金採択。https://www.instagram.com/uka_k4

審査員講評:すれ違うことはあっても、決して交差しない都市の喧騒。『TSUMUGI』は、日常のなかで行き交う人々の気配を起点に、静かなまなざしで都市を捉え直している。雑踏に手描きの線が寄り添い、もうひとつの時間や記憶の層が重ねられていく。観察と想像のあいだで紡がれるこの視点は、関係性が見えにくい都市の日常に、さまざまな「つながり」の可能性が蠢いていることを示しているようだ。実写を手描きアニメーションへ移し替えることで、「つながり」の兆しを浮かび上がらせる表現は、今回のテーマ「LINK」に深く呼応し、都市で受け取るイメージを見つめ直す契機を与えてくれる。開かれた公共空間で、こうした繊細なイメージのレイヤーが、そこを行き交う多様な来訪者へ静かに広がっていくことは、本アワードが目指す新たな価値の共有そのものと言えるだろう。都市の喧騒のなかに芽生える、「つながり」の可能性を柔らかな光のように提示した本作に、深い感銘を受けた。
(田坂博子|東京都写真美術館学芸員/恵比寿映像祭キュレーター)

優秀賞 高橋喜代史様「木々に願いを」(2025年)

コンセプト:

とあるアーティストが木々に向かってお願いをしている。

個人的な願望から、周りの人、世界へと壮大になっていく

しかしながら、その願いの大きさや重さに耐えられなくなったのか

本心から離れてしまったのか、願いはまた個人の願いへと帰っていく。

プロフィール:1974年北海道生まれ。「抵抗の美術史」を背景にパフォーマンスや言葉を用いた映像作品や立体作品を制作。近年は、パフォーマティブな言葉を軸に、社会問題と個人的感情を重ね合わせた映像インスタレーションや、言葉の多面性を立体化する作品を発表している。近年の展覧会に、「非常の常」国立国際美術館(2025)、「タグチアートコレクション×弘前れんが倉庫美術館 – どうやってこの世界に生まれてきたの?」弘前れんが倉庫美術館(2024)など。主な受賞に、第2回KYOBASHI ART WALL優秀賞(2022)、第3回本郷新記念札幌彫刻賞(2020)など。2012年より展覧会やスクールの企画も行う。2015年、一般社団法人PROJECTAを設立。 https://takahashikiyoshi.com

審査員講評:大きなテーマを掲げ、世界に気づきを与えようとする表現にも見えるが、実のところそれは、現代アート的身振りを伴う、ささやかな自己確認(そして自己肯定)にも思える。札幌のアートシーンを牽引する一人である高橋氏の作品を、そのように見ている。時に情けなくも映るその独り言のような作品は、味わい深く、そして普遍的だ。
どこかの公園の一角で、人知れず願う人物が登場する本作。木に手を当てて願う、そのそれっぽい身振りが実に良い。世界に光を届けようとよそ行きの言葉を発っするものの、すぐにアーティストの本心が顔をのぞかせる。世界の片隅で、世界とつながろうとするこの“地味な作品”に、光を当てたいと思った。
字幕はほとんど同じ秒数で淡々と流れていく。
登場人物が心から発する言葉だけが、そのテンポの中で読み取れる。
やはり今回も傑作だ。
(山出淳也|Yamaide Art Office 株式会社 代表取締役)

いちご賞 江田俊介様、佐野風史様「Harmony of Scapes」(2025年)

コンセプト:この作品は、札幌の多様な風景が織りなすつながりを描きました。北海道に古くから住み続けてきたアイヌの人々は、森、水、土などの自然や人間の力が及ばないものに魂が宿ると考え、札幌を一望できる藻岩山(インカルシペ)の頂から自然の変化を見守ってきました。本作では、川や森、都市がつながり合い、現在の札幌を一望するような映像表現を試みています。全方位映像にオーサグラフ図法を応用することで、従来の視野をフレームで切り取る映像表現とは異なり、視野全体をフレームに収めました。これにより、見慣れた風景の中にありながらも人間の視覚を拡張したような視覚表現が実現します。さらに、映像同士がタイルのようにつながり、都市と自然といった異なる環境の空間がシームレスに結びつく、新たな映像体験を生み出します。The Village Sapporoを訪れる人々は、札幌の風景が織りなす感覚を味わい、都市と自然、そして過去から未来へと続くつながりを体感します。

●江田俊介プロフィール:慶應義塾大学大学院政策メディア研究科在学中。クマ財団9期生。建築と映像をバックグラウンドに、全方位映像に世界地図図法を用いて新たな視覚表現を探求。視野全体をフレームに映し出し、空間と時間を横断する視覚体験を試みる。「人間の視覚を超えた新たな映像体験の開拓」をテーマにしている。https://www.instagram.com/eda_shun_suke

●佐野風史プロフィール:2000年、京都府生まれ。サウンドアーティスト。『聞こえ』の構造から編集を行う「Hearing Composition(聞こえの作曲)」を核とし、万物に気配を感じる想像力と情報空間を生きる現代の身体感覚が混淆する日常の延長にある風景を生み出すことを探求。その手法は、AI、耳介の機能、ノイズキャンセリングに介入するデバイスから空間音響まで、様々なスケールを横断する。https://www.instagram.com/fu.fu.fu.fu.fu.fu/

審査員講評:このたびは、2026年4月竣工予定のオフィスビル「THE VILLAGE SAPPORO」のコンセプトに基づき、「LINK(つながり)」をテーマとした映像作品に多数ご応募いただき、心より感謝申し上げます。多様な視点から制作された作品の中から、「いちご賞」には江田俊介様、佐野風史様の「Harmony of Scapes」を選定いたしました。オーサグラフ図法を応用したという映像は、90秒という限られた時間の中で札幌の都市と自然が調和し、一つの生命体のように息づいています。チ・カ・ホに接続するエントランスの大型サイネージに映し出された際には、行き交う人々の目や心を惹きつける光景が容易に想起されます。どの一瞬を切り取っても美しく、確かな技術に裏打ちされた映像美としての完成度の高さに心を惹かれました。一方で、90秒という時間を有効に活用し、ストーリー性が加わることで、作品全体の一体感がいっそう高まる可能性を感じます。大型サイネージでの上映を楽しみにするとともに、今後も札幌のアートシーンを牽引されるご活躍を心より期待しています。
(𠮷松健行|いちご株式会社 常務執行役(ブランドコミュニケーション部担当))

入選 kankakusiki様「Good」(2025年)

コンセプト:映像の中の黒い丸に親指を合わせると親指の上にウサギが座って見える。ウサギが「グッド!」とサムズアップして、黒い丸に親指を合わせた映像を鑑賞する人もサムズアップしているという仕掛けのアニメーション作品です。

●プロフィール:フライヤー、ポスター、CDジャケットなどでアートワーク提供、店舗への壁画制作や商品へのイラスト制作、ライブペイントやショーウィンドウなどでインスタレーション制作を経てアニメーションや映像も制作。https://www.tiktok.com/@kankakusiki

審査員講評:「Good」は、画面上の黒い丸に親指を合わせると、映像のウサギが親指の上に座って見える仕掛けを取り入れた、参加型の映像作品です。歩行者が思わず立ち止まり、映像に関与したくなる自然な誘導力があり、本アワードのテーマ「LINK」を“鑑賞者と映像のつながり“として体現しています。手書き風の線画がもつ軽やかさや、視線を引き込むユーモアのある動きは、日常の中でふっと注意を引き、場を和ませる効果を生み出しています。オフィスワーカーが行き交う広場空間との相性も良く、鑑賞者の行動を作品体験に取り込む点を高く評価し、以上の点から、本作品を入選作品として選出いたしました。
主催者として、多様な表現を通じて広場に新たな視点をもたらす作品と出会えたことに、心より感謝申し上げます。
(内川亜紀|札幌駅前通まちづくり株式会社 代表取締役社長)

入選 Now様(鍋島彩葉様、後藤結希様、蔦森美咲様、佐藤柑菜様、高口ののか様、寺下幸来咲様)「シャッターチャンス」(2025年)

●コンセプト:私たちはテーマ『LINK』をもとに、映像を「鑑賞するもの」から「体験するもの」へと広げることを目指しました。チ・カ・ホの大画面を生かし人が結びつくことで、通行の場が交流や楽しさを感じられる空間へと変わることを意識しています。映像は歩行空間に合わせて構成し、どこのシーンで立ち止まってもフォトスポットとして認識できるよう工夫しました。背景がリズミカルに切り替わる仕組みによって、思いがけない場面に出会う驚きや予想外の構図で撮影できる楽しさが生まれます。何度でも撮りたくなる体験は鑑賞者同士の会話や笑いを誘い自然に人と人をつなぎます。映像が時間とともに変化し偶然の瞬間を生み出す特性を活かすことで、日常の中に「もう一度訪れたくなる場」をつくり、札幌の街に新しいにぎわいを生み出したいと考えています。

●プロフィール:私たちは札幌大谷大学の「映像制作演習」での制作として参加しています。「映像制作演習」とは音楽学科と美術学科の学生が協働し、映像表現に取り組む授業です。今回のチームは1年生6名(美術学科5人・音楽学科1人)で構成され、それぞれの専門性を活かしながら一つの作品を作り上げました。https://www.sapporo-otani.ac.jp/

審査員講評:公共の歩行空間に流すサイネージ映像は、そもそもコンセプト設計が難しい。物語性のある作品には人を立ち止まらせる力があるものの、歩行空間としての最適解はなかなか見えにくい。もっと気軽に“映え”を楽しめる映像インスタレーションがあっても良いのでは──そう思っていたところ、札幌大谷大学の学生グループが本作を届けてくれた。
等身大の被写体がユニークな生成AI画像とコラボレーションする撮影スポットをつくり出す本作は、画像の切り替わりが早く「これではシャッターチャンスを逃すのでは?」と一瞬疑ったが、実際にはそうではない。被写体の立ち位置が固定されているため、タップで止めるGIFゲームのように“偶然性を楽しむ”というリズミカルな遊び心がしっかり仕込まれているのである。
歩行者に楽しい体験を提供し、何より場そのものを楽しいものにしようという意図が明快で、大変魅力的な作品。入選作品として推薦します。
(小野朋子|新千歳空港国際アニメーション映画祭ディレクター)